恋しくて

愛知県在住/小林様

母と最後にハワイを訪れたのは、7年前の2003年のお正月だった。「ハワイは、空気にも匂いがあるね」開口一番嬉しそうに言った。お気に入りは、サンセット時にラグーンタワーのラナイから眺める景色だった。遠く水平線からオレンジ、パープル、グレーへと何層もの色をバウムクーヘンの様に折り重ね夜空の星達を迎える。正面には、山肌を一層濃いコントラストで暗く浮び出す存在感のあるダイヤモンドヘッド。

母の手術後、間も無い事もあり、キッチン付きのラグーンタワーは、とても有り難かった。はしゃぎ過ぎて疲れが出たのか2日間はベットの上で過ごしたが傍らには、しっかりと父を従えていた。早朝、妻とラナイから見下ろすと手を繋ぎラグーンのビーチを散歩している二人の姿を見つけた。暫く無言で、ただ妻の手を強く握りしめていた。いつまでもこんな幸せな時が続いてくれると信じていた。

今にして思えば母は、自分の存在をこの地に植え付けたかったのかも知れない。あの時「とし君、わたしは、この匂いも風も眩し過ぎる日差しも忘れないからね」と言った彼女の言葉が今も脳裏によみがえる。辛く苦しい治療にも「死ぬまで一生懸命に生きるからね」と事を悟ったかのように頑張り続けた。最後にありがとうと言い残し逝ってしまってから早6年の月日が経とうとしている。

あれから、母に似て存在感のある子どもが生まれた。マウイ島の地名とハワイ語の家族という言葉にちなみハナと名付けた。以前のように4人で彼の地に降り立つが、相も変わらずキッチン付きのラグーンタワーは温かく迎えてくれる。新しくできたプールで遊んでいるとグランド・ワイキキアンからビーチに吹き抜ける柔らかい一陣の風を背中に感じた。母がここで見守っていてくれているような気がして・・・。だから、いつも恋しい。